2013年8月25日日曜日

タイムトラベルの分類 改定版

先日,タイムトラベルの分類についての記事で,歴史改変がなくて;かつ同一人物が同時代にいないタイプのタイムトラベルはないとした.しかし,『タイム・リープ あしたはきのう』(電撃文庫 上下巻)が,まさにそのタイプであったので改定することにする.


タイムトラベルはSFでは一般的な仕掛けである.SF上のタイムトラベルにはいくつかの種類が存在する.そこで,SF物語上のタイムトラベルを分類していこう.

よくみられるように,2つの軸に分けて,4象限のマトリクスで分類していく.1つ目の軸は,歴史改変がある/ないの分類;2つ目の軸は同時代に同一人物がいる/いないの分類.

歴史改変がある/ないとは,時系列もしくは因果関係の系列が一本なのか;それともタイムトラベルによってそれらが変化するかどうかということである.設定で歴史改変が認めれていたとしても,物語の上で歴史改変がなされないものは,歴史改変がないに含める.

同時代に同一人物がいるこる/いないとは,昨日に飛んだときに,昨日の自分がそこにいるタイプなのか;いないタイプなのかという分類だ.意識のみが時間を越えるのか;もしくは,身体も含めて時間を越えるのかは問わない.この分類は『傾物語』で少し言及されていた.『傾物語』は最後まで見ていないので,まだ分類できない.

以下の表に具体的な作品を分類する.便宜上それぞれに[A],[B],[C],[D]とラベルをつける.

  歴史改変がある 歴史改変がない
同一人物が同時代にいる [A]
バック・トゥ・ザ・フューチャー
ルーパー
[B]
夏への扉
涼宮ハルヒの憂鬱
ドラえもん(?)
同一人物が同時代にいない [C]
時をかける少女
シュタインズゲート
魔法少女まどか☆マギカ
[D]
タイム・リープ あしたはきのう

[A]が映画ではもっとも一般的だ.タイムトラベルによる混乱が生じて,物語的に面白くなりやすい.

しかし,どうしても歴史改変による矛盾:タイムパラドックスが生じてしまう.タイムトラベルなんで存在しないのだから仕方がない.それを強引にどう解決するかもタイムトラベルものの面白さのひとつだ.有名なタイムパラドックスに親殺しのパラドックスというのがある.過去に戻って自分が生まれる以前に親を殺したら自分が存在できないというやつだ.これを表現するにはどうすればよいのか.

映画でよくあるのが,歴史的な時系列を無視して,物語の中での時系列で因果関係を表現するというものだ;『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では,自分の存在が危うくなると,体が透けてくる;また,『ルーパー』では,現在の自分の体に傷をつけると,未来の自分にその傷あとが現れる.親を殺せば,存在自体が最初からなくなってしまうのだから,自分が過去に行くというイベントが成立しえないはずだ.しかし,この表現では過去にいくというイベントは存在するけど,親殺しの影響は受けるとするのである.過去での歴史改変の影響は,時間を越えて現れるのである.

[B]は,時間軸が完全に一本でタイムトラベルの結果が,タイムトラベルするまえに既に反映されている.登場人物が過去に行って,いくら頑張ってもすでに未来は決定していて変えようがない既定事項なのだ.親を殺ろそうといくら努力して,成功しない.パラドックスが生じないのが利点である.しかし,結果が分かっているので終着点の意外さは損なわれてしまう.また,結果が決まっているのに登場人物はなんで頑張っているのだろうと思ってしまう点もある.一方で,伏線を貼りやすいという利点もある.未来の情報を頼りにして,すでに分かっている結果に帰着するように工作する.結果でなくてプロセス重視のタイプである.

『ドラえもん』を(?)をつけてここに入れたのは,設定が一貫していないからだ.[A]にも思えるが,タイムパトロールが頑張っているので,結果として[B]となっているのだろうか?ドラえもんがやっていくる未来は一定だ.昔話題になった同人作品のドラえもん最終話は[B]に分類される.

[C]は『時をかける少女』に代表されるタイプだ.過去の自分に戻ることができる.このタイプも,意識が過去の自分に飛ぶだけならタイムパラドックスが生じない.なぜなら,歴史が改変されて,時間軸が分岐することはあっても,[A]のように時間軸がループすることはないからだ.タイムパラドックスは,本来一方向であるはずの因果関係が,過去と未来がくっつくことで輪になってしまうために生じるのだ.また,自分の生前にタイムリープしたらどうなるのだという問題は残る.生前にタイムリープしたら,タイムパラドックスが生じてしまう.間宮千昭もしくは深町一夫はどうやって未来に帰るのだろうか?

『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむらの能力も[C]に分類される.世界の時間軸を分岐させるという相当すごい能力である.(2013/11/3)

[D]は一般には成立しない.過去の自分にタイムリープしただけで,必然的に歴史が改変されるからだ.『ドラえもん』の『人生やりなおし機』は[D]に近い.今の頭で過去に戻っても,結局同じことになるというオチ.『ドラえもん』はいろんなパターンを含んでいる興味深い作品だ.

タイム・リープ あしたはきのう』は,同じ時間を繰り返さないという制約を付け加えることで,[D]を実現している.[D]は成立しないと思っていたが,この作品で[D]のタイプが成立することが証明された.作中で[A][B][C]それぞれのタイプの作品について言及されていたので,この作品はあえて[D]の位置を狙っていると思われる.『タイム・リープ』はタイムトラベルものの中でも,特異な位置にある重要な作品である.

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